そうしてたのは、僕? | セピア色の心電図

そうしてたのは、僕?

大概、電話の呼び出し音は10秒以上鳴れば、切れる。相手の事を思って掛ける訳だから、その10秒間で「今電話に出れない理由」が思い当たる。それが自然なはずだ。

キョウコのは不自然だった。

もう何秒たったろう。僕は留守電設定にしてないから、ずっと鳴り続けている。これは「僕が電話に出ない」という選択肢を考えていない。という事になる。躊躇するだけに足る数秒間だった。

「・・・もしもし」

「あーもしもし?出るの遅くないですか?あのー・・・」

・・・思いつめた声ではない事に、ほっとしたりがっかりしたり、僕も忙しい人間だ。

会話の内容を総合するとキョウコは斎藤の最近の行動に疑問を抱いているようだった。凄く楽しそうに趣味の絵画の話をしたかと思えば、昼間食べたランチの値段の高さに憤ったり、なのに今度そこに行こうと誘ったり、とにかく支離滅裂なのだそうだ。その事をキョウコも一気にまくし立てるものだから、僕の頭の中も支離滅裂なままだ。

「うん、で、それでどうしたいんだい?キョウコは」

「うん・・・そうね・・・それなのよね・・・」

トーンダウン。

この辺は、斎藤と付き合うようになって、ついてしまった癖だろう。あまりいものではないような気もするのだが、本人は良く分かっていないだろうなと思う。


沈黙は続く。車が一台、公園の脇を抜けていく。


「貴方はどうしたいの?」

「・・ん」

図らずも、驚いた声が出てしまったかもしれない。しまったと思った。いずれこんな時がくると思っていた。その為の声のトーンや台詞を考えていた時があった。

彼女や斎藤は、自分のことしか話さない。僕の事を聞こうともしない。それが嫌味でも、自己満足でもなく、自然だと考えている節がある。僕もそうした関係性の人のほうが、これまで上手く繋がっている。

だから、いつか、その均衡が崩れ、全ての矛先が僕に向くときがくるのではないかと思っていた。今がそのときだった。

どうする。

(続けるのかもしれない)