泥水
とてつもない驚きで息を飲む事と、酸素が足りなくて呼吸が荒くなる事は同時には出来ない。論理的に考えれば、そうだろう。
しかし、彼女を目の前にして、僕はそのありえない状態に陥っている。肩が上下しながら、片時も目を離せない。少女は目の前にいる。少女もまた、僕を見ている。
信号が青に変わった。
人の波が動き出す。少女も、ふと目線を私から外し、歩き出そうとしていた。僕ははっとして、彼女の手を掴む。
「・・・いたい」
そのか細い声を聞いた瞬間、僕は自分自身が今、している行動が常軌を逸している事に気がついた。
「ごめん!ごめんなさい!」
慌てた。どうしてこんな事をしたんだろうと悩んだが、同時に自分の行動に納得していた。
カノジョヲ ニドト ウシナッテハ ナラナイ
脳の深い部分で訴えかけられている。誰に?そんな事はどうでもいい。確かな事は僕の目の前にいる存在と、今流れている時間であるはずだ。
少女は何も言わず、ただ僕を見つめている。黒く長い髪が風に揺れ、白い手がゆっくりと僕に伸びてくる。
「あ・・」
言葉にならない言葉が口から漏れてしまう。少女は僕の眼を冷たい手で隠した。
「何もないのよ」
何が?と問う前に、僕の意識に18歳のあの時の光景が蘇る。スライドショーは、土砂降りの雨の公園。そして、横たわる僕と、口元に流れ込む泥水の味だった。
(思いつくままに続く)
しかし、彼女を目の前にして、僕はそのありえない状態に陥っている。肩が上下しながら、片時も目を離せない。少女は目の前にいる。少女もまた、僕を見ている。
信号が青に変わった。
人の波が動き出す。少女も、ふと目線を私から外し、歩き出そうとしていた。僕ははっとして、彼女の手を掴む。
「・・・いたい」
そのか細い声を聞いた瞬間、僕は自分自身が今、している行動が常軌を逸している事に気がついた。
「ごめん!ごめんなさい!」
慌てた。どうしてこんな事をしたんだろうと悩んだが、同時に自分の行動に納得していた。
カノジョヲ ニドト ウシナッテハ ナラナイ
脳の深い部分で訴えかけられている。誰に?そんな事はどうでもいい。確かな事は僕の目の前にいる存在と、今流れている時間であるはずだ。
少女は何も言わず、ただ僕を見つめている。黒く長い髪が風に揺れ、白い手がゆっくりと僕に伸びてくる。
「あ・・」
言葉にならない言葉が口から漏れてしまう。少女は僕の眼を冷たい手で隠した。
「何もないのよ」
何が?と問う前に、僕の意識に18歳のあの時の光景が蘇る。スライドショーは、土砂降りの雨の公園。そして、横たわる僕と、口元に流れ込む泥水の味だった。
(思いつくままに続く)